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現役医師、循環器内科医(Dr. I)が医療について、詳しくわかりやすく解説するブログ。 引用、転載は自由ですが、その際は必ず引用元を明記して下さいね!
奈良の産婦人科医2
奈良県の産婦人科学会から、今回の件に関して、声明がでましたね。

産婦人科医会「主治医にミスなし」 奈良・妊婦死亡

奈良県大淀町の町立大淀病院で8月、
分娩(ぶんべん)中に重体となった妊婦(当時32)が
県内外の19病院に搬送を断られ、
出産後に死亡した問題について、同県医師会産婦人科医会
(約150人)は19日、同県橿原市内で臨時理事会を開き、
主治医の判断や処置にミスはなかった」と結論づけた。

妊婦は脳内出血を起こし、意識不明となったが、
主治医らは妊娠中毒症の妊婦が分娩中にけいれんを起こす
子癇(しかん)」と診断し、CT(コンピューター断層撮影)
検査をしなかったとされる。

理事会後、記者会見した同医会の平野貞治会長は
「失神とけいれんは、子癇でも脳内出血でも起こる症状で、
見分けるのは困難。
妊婦の最高血圧が高かったこともあり、子癇と考えるのが普通だ」
と説明。「CTを撮らなかったのは妊婦の搬送を優先したためで、
出席した理事らは『自分も同じ診断をする』と話している」とも述べた。

県警が業務上過失致死容疑で捜査を始めた点については、
「このようなケースで警察に呼ばれるのなら、
重症の妊婦の引き受け手がなくなってしまう」と懸念を示した。


参考:ある産婦人科医のひとりごと:産婦人科医会「主治医にミスなし」 奈良・妊婦死亡で県産婦人科医会 (朝日新聞)


素早い対応だったと思います。
前回の記事「奈良の産婦人科医」で書いた、私の推測が、
医学的にもほぼ正しいという事になりますかね。
専門でないので、自信はなかったんですけどね。

と、すると今回の件は、搬送先が決まるまでに時間がかかった
という事が問題になりますね。

前回も書きましたが、出産間近の妊婦で、意識消失があり、
重症の子癇もしくは脳出血が疑われる症例ですから。
受け入れ先の病院の条件として、

ICU(集中治療室)+NICU(小児の救急治療室)
+産婦人科医2人+小児科医麻酔科医
+手術室の看護師3,4人 +脳外科医2人

この条件を夜中の2時、3時に満たす病院という事になります。

そして、こういう条件を満たす病院は数少ないので、
受け入れ拒絶、拒否」ではなくて、「受け入れ不可能」であるんですね。

では、なぜそうなったかという原因ですが。

1,医師の人数の問題

産婦人科医2人+小児科医麻酔科医脳外科医2人医師が必要なんですから。
最低6人の医師が、夜中に緊急で来ることができる病院です。
という事は、それぞれの医師が1人、2人であれば、24時間365日
これだけの人員を確保できる訳がありませんから。
最低でも、それぞれの科で、この2倍、3倍以上の医師が必要という事になります。

これに関しては、さんざんこのブログでも書いてきた、
医師不足」の問題になります。
さんざん医師不足って言っているのに、厚生労働省医師偏在と言って、
過去の政策の間違いを認めず、医師を削減する政策を取ってきたから、
こういう事が起こったと言っても、過言ではないでしょう。

2,施設の問題

ICU+NICUがある病院って事になりますね。
しかも、それぞれに空きがなければ受けられません。

普通の病院では、看護師の数は10:1看護といって、
ベッド数10に対して、看護師1人が必要になります。
今回、改正になって7:1看護だと診療報酬が上乗せされるようになりましたが。

で、集中治療室の場合は、これが2:1看護になります。
要はベッド数2に対して看護師1人が必要って事です。
ベッド数10なら3交代制として、5x3人
もちろん15人しかいなかったら、交代交代とはいえ、
全員365日休みなしですから。
最低でも25~30人位看護師は必要って事になります。
ICUとNICUそれぞれって事には、必ずしもならないとは思いますがね。
看護師不足の問題にもなってきます。

そして、満床だと、新規の患者は受け入れられないんですよね。
ベッドが空いてないのに、患者を受け入れられるわけないですから。

ちょっと前は、満床でもなんとかやりくりして、患者の命を救うために
無理して
受け入れていた病院もあるんですがね。
今、厚生労働省は、病床数を減らそうとしているので。

満床を超える入院患者を抱えた病院には罰(減額)措置があるんですよ。
一時的にでも、満床を越えると、厳しーく厚生労働省から指導が入ります。

それなら、「じゃ、ベッドを空けていたら良いんじゃないか」
って話になりますが。

それも、なかなか難しくなっています。
厚生労働省医療費削減の方針で、診療報酬が徐々に下げられていますから
各病院とも、常に満床に近い状態でないと、赤字になってしまうんですよ
だから、いつも満床に近い状態でも、病院側から見たら、
やむを得ないって事になると思います。

これも、行政厚労省が悪いって事になりますかね。

3,医療訴訟の問題

これは昨今のマスコミによる医者叩きが関係していますかね。
最近、専門じゃないから助けられなかった。
もっと早く専門病院に送ったら、助けられたかもしれないのに。
という事で、医師が叩かれているので。
病院も患者を受け入れにくくなっている、という面もあると思います。

自分の病院では
ICU(集中治療室)+NICU(小児の救急治療室)
+産婦人科医2人+小児科医麻酔科医
+手術室の看護師3,4人 +脳外科医2人

までの設備、人員はないがベッドは空いているので、
なんとか受け入れることは可能かもしれない。
でも、助かる見込みは少ない。
となると、昔は患者を助ける為になんとか受け入れていたかもしれませんが。
今は、能力がないのに受け入れたから助けられなかった。
マスコミに責められる時代ですから。
受け入れに躊躇するのも当然だと思います。

しかし、病院としては必要な設備が整っていなくて、
他の施設に送った方が助かる可能性は高い、
と判断したのですから。
それが間違いではないと思いますし、責められるべきでもないと思います。

受け入れられるのに受け入れなかった、「受け入れ拒否」ではなく、
受け入れる人材、施設がなかったので、
受け入れる能力がなかった」という事ですから。

4,システムの問題

病院同士の連携の問題と言っても良いかもしれませんね。

個々の病院が、どういう患者がいたら、まずどこに送るとか。
ルールを決めるとか、そういう事もできなくはないんですが。
これを、個々の病院の問題にすり替えるのは、どうかと思います。

それぞれの地域全体で、もしくはでそういうシステムを作らないと、
また同じ事が起こると思います。

例えば、インターネットで、どこの病院ベッドが空いているか
どの病院医者が何人いて、ICU,NICU等の設備があるのか。
そういうのを、リアルタイムで全ての病院で見る事ができるシステムとかですかね。

実現には時間がかかると思いますが。
こんなシステムがあれば、素敵ですね。

是非このシステムを導入する時は、厚労省の天下り先からではなく、
競争入札を行って、民間企業に作ってもらいたいですね。


結局、今回の件で悪者主治医産科医個人ではなく、
厚労省医療行政って事になると思うんですがね。
それを、医者個人の責任にしようとしてますよね、明らかに。

行政責任にしてしまうと、その原因をなくすために、
また医療費がかかるから、医者個人の責任にしよう。
そういう圧力政府からマスコミにでもかかっているんですかね。
そう考えでもしないとおかしいくらい、各マスコミが
間違った方向で一致していますよね。

医師不足に関しては、厚労省が「医療費亡国論」って、
20年以上前の間違った理論に固執して、医師削減を勧めているので。

厚労省政策の間違いを認めて、OECD平均になる位までは、
医師の数を増やす政策に方針転換する。


施設に関しては、空きベッドがないと急患を受け入れられない訳ですから。
3次救急をやっている大きな病院は、急患受け入れの為に、
いくつかベッドを敢えて空けて貰う。
その為に、空きベッドを作った病院には、それに応じて補助金を出すとか。

急患の命を助ける為に、一時的に患者を受け入れて満床を越えても
罰則を与えるのではなく、むしろそうした場合には、報奨金を出すとか


そういった、行政側の対応

医療訴訟を増やさない為に、萎縮医療をなくすために、
マスコミは仮説だけで、悪くもない医師の個人攻撃を止めるとか。

病院間の連携を取るために、地域毎にネットワークを作るとか。

そういった、根本的な解決策をとらなければ、
間違いなく、また同じ様な事は起きると思います。

大事なのは、1人の医者をいじめることではなくて、
今後似たような事を起こさないようにする事のはずです。


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