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現役医師、循環器内科医(Dr. I)が医療について、詳しくわかりやすく解説するブログ。 引用、転載は自由ですが、その際は必ず引用元を明記して下さいね!
救急医療も崩壊1
ここ数日、本業が忙しかったのであまり医療のブログや
ネットを見ていなかったのですが。
このブログでも取り上げた産科医の件以外でも、
また奈良で大変な事になっていますねー。

Yosyan先生の「新小児科医のつぶやき:救急の黄泉」
で11/8に取り上げられて、Sky Team先生も言及されていましたが。
産科に続いて、救急医療も崩壊しそうですね。

長いですが、元ネタは、これ!
「奈良の民事裁判での判決文(高裁)」


かなり長いので、要約しますね。

H5年10月8日、車に2人が乗っていて事故って、
午後4時47分頃、奈良県の2次救急病院に運ばれてきたんです。
この時、外科当直医は、脳外科医の先生(多分ベテラン)です。

2人運ばれてきて、助手席の方の人は一見、軽症そうに見えたけど、
胸部X線検査中に急変し、呼吸不全,循環不全,意識障害が出ます。
肋骨骨折,肺挫傷等の重篤な異常が認められたので,
午後6時頃,救急車にN医師と看護婦が同乗し,
心肺蘇生を続けながら,3次救急のK病院まで搬送します。
K病院には午後6時30分頃到着し,直ちに蘇生術が試みられたんですが,
外傷性心破裂のため午後6時40分頃死亡されています。

2人同時に運ばれて、1人が急変されているので、
そっちにかかりっきりになるのは、人手が少なければしょうがないです。
そして、その後もう1人の運転手の人の診察に入ります。
かなり適切な処置がされていると私は思いますが、
以下判決文からそのまま引用します。(青字が引用です)
運転手がF,当直医の先生が被控訴人Eです。

Fについては,被控訴人Eは,まず頭部の視診,触診をして
項部硬直の有無,眼位,瞳孔等の確認をし,振り子状の眼振を認めた。
次に,胸部の所見をとり,頬からあごにかけて及び
左鎖骨部から頸肋部にかけて打撲の跡を認めた。
呼吸様式,胸部聴診に問題はなかった。
腹部の聴診と視診では,明らかな腹部膨満や筋性防御の所見はなく,
腸雑音の消失,亢進はなかった。また,四肢の動態に異常な点は認めなかった。
この頃のFのバイタルサインは,体温は不明,
血圧は158/26mmHg周辺で推移していた。
なお,Fの勤務先の定期健康診断(平成4年10月6日実施)
における血圧は,108/78mmHgであった。

被控訴人Eは,その後,Fが頭部を受傷しており意識障害があることから,
頭部CT検査を実施することとし,M医師の応援を求めた。
FはCT室に搬送され,頭部CT検査が実施されたが,
CT室において,採血も行われた。
頭部CT検査が終了したのは,午後5時9分であった。
被控訴人Eは,頭部CT検査に引き続き,頭部,胸部,腹部の
単純X線撮影を実施することにし,Fは,一般X線撮影室に搬送され,
午後5時22分から28分にかけて,頭部,胸部,腹部の単純X線撮影がされた。
なお,FのX線撮影が開始される前に,Jの容体が急変したため,
被控訴人Eは,Jの蘇生措置に当たっており,FのX線写真等を検討したのは,
午後5時30分をかなり過ぎていた。

被控訴人Eは,Fの頭部CT及び各X線写真に異常な所見がないことを確認し,
また,午後5時12分に算定された抹梢血液検査結果(乙1の37頁)
では貧血を認めず,全診療経過を通して血尿の所見もなかった。
また,午後6時15分頃から30分頃にかけて,被控訴人Eの下に
血液生化学検査の結果報告書(乙1の36頁)が届けられたが,
CPKの値は197mU/ml とかなり高かった(正常値は10~130mU/ml)。

被控訴人Eは,特に緊急な措置を要する異常はないものと認め,
Fを入院させたうえ,経過観察とすることが相当と判断した。
また,M医師も,午後6時頃,病室でFを診察したが,腹部は触診で軟,
筋性防御等の所見はなく,貧血を認めず,X線写真と総合すると,
経過観察とするのが相当と判断し,被控訴人Eにその旨伝えた。

このため,被控訴人Eは,Fを経過観察にすることにし,看護婦に,
病名を頭部外傷Ⅱ型,バイタルサイン4時間
(最低4時間ごとに血圧等の測定や観察をするという意味)などと記した
脳神経外科入院時指示表(乙1の38頁)を作成し,看護婦に交付した。

Fは,午後6時30分頃,一般病室への入院措置がとられ,
意識障害は継続していたが,呼吸は安定しており,点滴が開始された。
被控訴人Eは,本件病院に駆けつけていた控訴人AにFの病状を説明し,
同控訴人は,その説明を聞いた後,帰宅した。


私は内科医なので、重傷そうな外傷患者が来たらすぐに外科の先生を
呼んじゃいますので、外傷患者を診る事は少ないので。
はっきり言って、この先生ほどの的確な処置はできません。

そしてこの後、自体は急変します。

ところが,同日午後7時頃,Fの容体は急変し,
看護婦から血圧測定ができないとの連絡があり,
被控訴人Eらにおいて,血液ガス分析のための採血を行ったが,
その途中で,突然呼吸停止となり,胸骨圧迫式(体外式)心マッサージ,
気管内挿管等の蘇生術を施行したが,効果がなかった。
また,ポータブルX線検査を実施したが,明らかな異常を認めず,
さらに,外傷性急性心タンポナーデであれば,心嚢穿刺によって
劇的に状態を改善できると考え,超音波ガイドを使用せずに,
左胸骨弓の剣状突起の起始部から6㎝まで穿刺する方法を試みたが,
うまくいかず,心嚢で液体を得ることはできなかった。

なお,被控訴人Eは,研修医の時の救急救命センターでの研修を除けば,
これまで心嚢穿刺をしたことがなかった。
Fは,同日午後8時7分死亡した。
被控訴人Eの死亡診断は,胸部打撲を原因とする心破裂の疑いであった。
上記認定事実を前提として,まず,Fの死因につき検討するに,
G鑑定が述べるとおり,Fの死因は外傷性急性心タンポナーデ
によるものと認めることができる。



この患者の死因が外傷性急性心タンポナーデと裁判官が言っている
根拠が非常に希薄って、医学的な事は次回に述べるとして。
交通事故後、病院に運ばれて当直医が適切な処置をして、
残念ながら患者は亡くなったのですが。
この当直医民事事件で訴えられる事になりました。

何が悪かったかって言うと、こういう事みたいです。


証拠(G鑑定)によると,Jにみられたように心破裂による
外傷性急性心タンポナーデは,出血速度が早いため,
現場即死あるいは受傷後短時間で発症するが,Fのように,
受傷後2時間半頃に症状が出るのは,心破裂は極めて稀で,
ほとんどの原因は心挫傷であること,心挫傷の場合は,
心嚢穿刺又は心嚢を切開して貯留した血液の一部を出すことで
症状を改善することができ,心臓の手術は必要ではないこと。
血液を吸引除去あるいは手術的に心嚢を開放(心嚢切開又は開窓術)
していれば,救命できた可能性が極めて高いこと,
Fは受傷から容体が急変するまでの約2時間半は循環動態も安定していたので,
この間に重度外傷患者の診療に精通する施設に搬送していれば,
ほぼ確実に救命できたことが認められる。

以上からすると,被控訴人Eとしては,遅くとも経過観察措置を講じた
時点で,速やかに胸部超音波検査を実施する必要があり,それをしていれば,
心嚢内の出血に気づき,直ちに心嚢穿刺により血液を吸引除去し,
あるいは手術的に心嚢を開放(心嚢切開又は開窓術)し,
仮に本件病院で心嚢切開又は開窓術を実施できないのであれば,
3次救急病院に搬送することによって,救命することができたということができ,
被控訴人Eの過失・注意義務違反を認めることができる。



外傷性急性心タンポナーデを見逃したのは、心エコーをしなかったからだ。
それをすれば診断がついて、患者は助かったはずだ、という理論のようです。

速やかに胸部超音波検査を実施する必要があり」って言っていますが、
胸部超音波検査心エコーって検査、私は循環器内科医だからできますが。
他の科の医者心エコーをできる人は、救急の専門家で外傷を
たくさん見ている人くらいですよ。
循環器内科医は、全国で多分2万人位いますけど、
後で出てきますが救急専門医というのは、全国で約2千人だそうです。

しかし、判決文でも指摘しているように外傷後2時間30分も
経過してからの心タンポナーデ極めて稀です。
極めて稀ですが、これを想定して循環器や救急の専門家しかできない
心エコーの検査を頻回に行っていないと、
訴えられて4000万円も支払わされるそうです。

循環器内科医は、心エコーはできますが。
お腹のエコーはできません。
外傷といえば、胸だけでなくお腹も打っていると思うので、
実際問題は全国で2千人しかいない、と言えるでしょう。

そこら辺の事情は、この裁判官もわかっているようです。


我が国では年間約2千万人の救急患者が全国の病院を受診するのに対し,
日本救急医学会によって認定された救急認定医は2千人程度(平成5年当時)
にすぎず,救急認定医が全ての救急患者を診療することは
現実には不可能であること,救急専門医救急認定医救急指導医)は,
首都圏や阪神圏の大都市部,それも救命救急センターを中心とする
3次救急医療施設に偏在しているのが実情であること。
したがって,大都市圏以外の地方の救急医療は,
救急専門医ではない外科や脳外科などの
各診療科医師の手によって支えられているのが,
我が国の救急医療の現実であること。
本件病院が2次救急医療機関として,救急専門医ではない
各診療科医師による救急医療体制をとっていたのは,
全国的に共通の事情によるものであること。
一般的に,脳神経外科医は,研修医の時を除けば,
心嚢穿刺に熟達できる機会はほとんどなく,
胸腹部の超音波検査を日常的にすることもないこと。
被控訴人Eは,胸腹部の超音波検査が必要と判断した時には,
放射線科あるいは内科に検査を依頼しており,
自ら超音波検査の結果を読影することはなかったこと。
当日,被控訴人Eとともに当直に当たっていた小児科の医師も,
日常的に超音波検査をすることはなく,
単独で超音波検査をすることは困難であったことが認められる。

そうだとすると,被控訴人Eとしては,自らの知識と経験に基づき,
Eにつき最善の措置を講じたということができるのであって,
注意義務を脳神経外科医に一般に求められる医療水準であると考えると,
被控訴人Eに過失や注意義務違反を認めることはできないことになる。
G鑑定やH鑑定も,被控訴人Eの医療内容につき,
2次救急医療機関として期待される当時の医療水準を満たしていた,
あるいは脳神経外科の専門医にこれ以上望んでも無理であったとする。



ま、そりゃそうですよね。
って思ったら、何故かこの後、全く反対の意見に覆ります。


しかしながら,救急医療機関は,「救急医療について
相当の知識及び経験を有する医師が常時診療に従事していること」
などが要件とされ,その要件を満たす医療機関を救急病院等として,
都道府県知事が認定することになっており
救急病院等を定める省令1条1項),
また,その医師は,「救急蘇生法,呼吸循環管理,意識障害の鑑別,
救急手術要否の判断,緊急検査データの評価,
救急医療品の使用等についての相当の知識及び経験を有すること」
が求められている(昭和62年1月14日厚生省通知)のであるから,
担当医の具体的な専門科目によって注意義務の内容,
程度が異なると解するのは相当ではなく,本件においては
2次救急医療機関の医師として,救急医療に求められる
医療水準の注意義務を負うと解すべきである。

そうすると,2次救急医療機関における医師としては,
本件においては,上記のとおり,Fに対し胸部超音波検査を実施し,
心嚢内出血との診断をした上で,必要な措置を講じるべきであった
ということができ(自ら必要な検査や措置を講じることができない場合には,
ちにそれが可能な医師に連絡を取って援助を求める,
あるいは3次救急病院に転送することが必要であった。),
被控訴人Eの過失や注意義務違反を認めることができる。


????えーっと、最初の方では、

脳外科医小児科医超音波検査は無理。
注意義務違反を認めることはできない。
脳神経外科の専門医にこれ以上望んでも無理であったとする


って言っておきながら、この変わりっぷりは、
一体なんなんでしょうか。

あ、これかー。

2次救急医療機関の医師として,救急医療に求められる
医療水準の注意義務を負うと解すべきである。

2次救急病院の医師

救急医療について相当の知識及び経験を有する医師
常時診療に従事していること(救急病院等を定める省令1条1項)

救急蘇生法,呼吸循環管理,意識障害の鑑別,救急手術要否の判断,
緊急検査データの評価,救急医療品の使用等についての相当の知識
及び経験を有すること(昭和62年1月14日厚生省通知)


という条件を満たさないとできないって事ですね。
で、本当はこの病院で、救急をやる資格のない医師がやって
命を救えなかったから、賠償金を払って当然。
そういう事なんですねー。

なるほどー。
全国で2000人位しかいない救急認定医
そして、そのほとんどは首都圏や阪神圏の大都市部,
それも救命救急センターを中心とする
3次救急医療施設に偏在しているのが実情。

だそうですから。
多分地方で、しかも3次じゃなくて、2次救急病院にいる救急認定医
数百人くらいでしょうかねー。
ま、資格を持っていても昨今の医療崩壊によって、
救急医療をやっていない先生も結構いるでしょうけどね、実際。
ま、詳しくは知りませんが。

そういった専門の資格を持った医者が、3次救急の高度な医療施設に
集まる事は、偏在というより医療の効率化をする上で有効な事だと
私は思います。
でも、救急患者は、かなり全国に散らばっています。
全国で毎年約2千万人救急患者が病院を受診するみたいですから。
地方の2次救急病院の、救急認定医数百人で、1千数百万人
救急患者を診るっていう事なんですね。

1人当たり、年間数万人ですか。
下手したら10万人越えますかね、一年で。
しかも救急の患者だけで、平日の昼の定期外来受診は除いて。

そりゃー、救急医療崩壊どころじゃないですよねー。
でも、しょうがないですよね。
それしか人数がいないんだし。
それ以外の医師が、かなり適切と思われる医療をやっても、
救急専門医クラスの高度な医療が、2次救急の病院で行われなければ、
裁判で訴えられて法外な賠償金を取られるんだから。


2次救急をやろうって病院や医師が減るのもやむを得ませんね。
これで、産科に続いて救急医療も崩壊への道が加速しましたね。

この裁判官が医療の現場を全くわかっていないって事は、
今日の話でわかりましたが。
医療現場だけでなく、医学そのものに関しても、全く見当はずれな事を
言ってるって事は、次回以降、具体的に話しますね!

3次救急に搬送が必要な重症の病気、エコノミークラス症候群。
この病気について知りたいって人はこちらから!


→ 「気をつけて!死んじゃうかも!フライトの旅行で注意すべき病気!」

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