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現役医師、循環器内科医(Dr. I)が医療について、詳しくわかりやすく解説するブログ。 引用、転載は自由ですが、その際は必ず引用元を明記して下さいね!
医師の注意義務違反
最近医療訴訟関係の記事を目にする事が多くなってきましたが。
判例で良く出てくるのが、「医師の説明義務違反」って言葉と、
医師注意義務違反」って言葉だと思います。

正直言って、こういうのって、どこまで説明する義務がある、とか。
そういう具体的な事が法律には書いていませんから。
完全に、「裁判官の主観」になってるような気がするんですよね。
医療に関しては素人の、裁判官の主観に。
そいで、無制限にこの範囲が広がっているから、
おかしな判決が出ているような気がします。


くも膜下出血」っていうのは、脳卒中の中に含まれる病気で、
突然死する事もある非常に恐ろしい病気なんですがね。
たまたま、私のメルマガ「やぶ医師のひとりごと」
でも取り上げてますけど、今。
これに関して、なんか最近、医者にとっては厳しい判決が
いくつか続いているように思えます。
最近たまたま私が目にしただけなのかもしれませんけどね。

そいで、今日はH17.10.13に函館地裁で判決が出た、
脳動脈瘤クリッピング術中に動脈瘤が破裂、出血して重篤な後遺症が
残ったことについて、医師注意義務違反ありとされた事例

を取り上げます。

元ネタは、m3.comの「医師のための法律講座 シリーズ3」からです。
あ、裁判所のHPから、本物を取り出そうと思ったんですが。
ちょっとできなくって、本物の判例は見れませんでしたので。
m3.comからの引用、そのままです。


脳動脈瘤クリッピング術中の出血と医師の責任

H12年、患者A(当時51歳の女性)は激しい頭痛に見舞われて
救急車でB病院に搬送された。
脳神経外科のC医師が診察し、CT検査の結果「くも膜下出血」と
診断され入院した。
脳動脈瘤頸部クリッピング術が行われていたが、術後、患者A
には、意識障害、四肢麻痺等の重篤な後遺症が残る事となった。

入院の翌日、C医師が執刀医となって、患者Aに対して、
脳動脈瘤頸部クリッピング術が行われた。

しかし術中に、動脈瘤の頸部が避けて内径動脈の近位部に
裂け目が広がり、大量の出血が生じた。

術後、患者Aには、意識障害、四肢麻痺なの後遺症が残り、
日常生活全般にわたり介護を要する状態となった。
患者Aとその夫は、B病院に対し、介護費用、慰謝料など
合計9000万円の損害賠償請求訴訟を提訴した。

判決
脳動脈瘤クリッピング術に際して、術中破裂が生じた場合の
止血を容易にするための措置を講ずることなく動脈瘤クリッピング
を行ったことについて、医師注意義務違反があったと認められるから、
B病院には、患者Aとその夫に対し、
合計約2270万円の損害賠償責任がある。

函館地裁 H17.10.13判決
(判例時報1943号74頁)

判決理由1
患者Aの脳動脈瘤は、術前の脳血管造影の結果、チマメ状動脈瘤
の可能性が高いと判断できており、C医師はチマメ状動脈瘤
の術中破裂の危険性を十分に認識し、破裂の可能性が高いことを前提に
止血対策を十分に吟味検討した上で、少なくとも頸部頸動脈の確保、
内径動脈近位部の十分な確保等の術中破裂が生じた場合の
止血を容易にするための措置を講ずべき注意義務があった。

判決理由2
C医師には、前記各措置を講ずることなく動脈瘤へのクリッピング
を行った事について、注意義務違反がある。

判決理由3
多くの医師が前記措置を講じないままチマメ状動脈瘤に対する
クリッピング術を施行していたとしても、それは平均的医師
現に行っていた医療慣行にすぎず、注意義務の基準としての
医療水準と一致するものとは限らない。

判決理由4
前記措置を講じていれば、患者Aに本件ほどの重大な後遺症が
残らなかった高度の蓋然性があるが、他方で前記各措置を講じ
ていても相当程度の後遺症が残った蓋然性が高いといえるから、
医師注意義務違反と相当因果関係のある損害は介護費用の
3割に当たる額等約2770万円と認めるのが相当である。



相変わらず専門用語が多いので、まず解説。
何度も言いますが、私は循環器内科医ですので。
くも膜下出血っていうのは、脳外科医が専門なので。
私は専門外ですが。
あくまで、わかる範囲で解説しますね!

くも膜下出血って言うのは、脳に行く動脈に「こぶ」のようなもの
が出来て、それが破裂してなる事が多いんです。

で、この患者は激しい頭痛に見舞われて救急車でB病院に搬送
と書いてありますから。
もうすでに、「くも膜下出血」になっているんですよ。

脳ドックとかで、何の症状もないのに、予防的に手術をして、
その結果、後遺症が出た、とかそういうのとは、明らかに違います。

もうすでに、くも膜下出血になっていますから。
このまま放っておいたら、死んでしまうかもしれないので、
緊急手術が必要」って状態です。
翌日の手術なので、準緊急って言った方が良いかもしれませんけどね。

くも膜下出血では、破裂した脳動脈瘤が、もう一度出血(再破裂)する事
(特に24時間以内が要注意)があるんですよ。
もう一回破裂すると、くも膜下出血が増え、脳のダメージがより深刻になって、
死んでしまう確率も高くなっちゃうんですよー。
だから、再破裂を防止する為に行われる治療
脳動脈瘤クリッピング術」なんです。

わかりにくいでしょうから、参考の為に図を置いておきますね。
「くも膜下出血:クリッピング、図」


で、脳に行く動脈に造影剤を流して動脈を直接見る検査(脳血管造影)
をして「チマメ状動脈瘤」と診断しています。
詳しくわからないんですが、これは普通の動脈瘤よりも
破裂の危険性が高いみたいですね。

そいで多分、命に関わる重篤な病気だから。
もう一回破裂したら死ぬかもしれないから、緊急手術が必要だ。
そして、「チマメ状動脈瘤」だから、破裂の危険性も高い。
という話を本人と家族にしているんだと思います。
もし、そういう話をしていなかったら、
説明義務違反だ」って必ず言われますし。
判例でも、チマメ状動脈瘤の可能性が高いと判断できており
って言ってますからね。

そして、ここからが問題です。

>C医師はチマメ状動脈瘤の術中破裂の危険性を十分に認識し、
破裂の可能性が高いことを前提に止血対策を十分に吟味検討した上で、
少なくとも頸部頸動脈の確保、内径動脈近位部の十分な確保等の
術中破裂が生じた場合の止血を容易にするための措置を講ずべき
注意義務があった。
C医師には、前記各措置を講ずることなく動脈瘤へのクリッピング
を行った事について、注意義務違反がある。
多くの医師が前記措置を講じないままチマメ状動脈瘤に対する
クリッピング術を施行していたとしても、それは平均的医師
現に行っていた医療慣行にすぎず、注意義務の基準としての
医療水準と一致するものとは限らない。



より専門的で難しい話になっちゃいましたね。
そいで、m3の中に、弁護士の間石成人先生のすばらしい解説
があったんで、それを引用しますね。

(1)医療慣行と医療水準

本件では、脳動脈瘤頸部クリッピング術中の動脈瘤の破裂防止策
ないし破裂時の止血準備態勢における過失の有無が争点となりました。

裁判所の判断は判決理由で示したとおりですが、ここで取り上げるのは
その当否ではなく、医療慣行と医療水準に関する裁判所の判示です。

判決では、仮に、当時の脳神経外科医療において、クリッピング術中に
破裂が生じた場合の止血を容易にするための措置を講ずることが
標準化しておらず、多くの医師がこれらの措置を講じないまま
チマメ状動脈瘤に対するクリッピング術を施行していたとしても、
それは平均的医師が現に行っていた医療慣行にすぎず、
注意義務の基準としての医療水準と一致するものとは限らない、
と指摘されました。

(2)ガイドラインと医療水準

本件では、学会のガイドラインには、チマメ状動脈瘤に対する
クリッピング術において術中破裂が生じた場合に止血を容易にするための
措置を講ずるべきである旨の記載がない点も争点となりました。

判決は、ガイドラインの記載内容は医療水準を認定する上で
参考となりうるものの、ガイドラインが医療機関に要求される
医療水準に基づく治療法等をすべて網羅しているとは解されな
いから、ガイドラインに記載がないことは注意義務の存在を否
定する根拠とはならない、と判示しています。

この事例での結論の当否は別として、ガイドラインと医療水準との
関係についての裁判所の考え方を示すものとして
参考になると思われます。



医師の注意義務っていうのは、競馬の予想のように、
当たるか当たらないかわからないものまで、予想して
きっちり当てないといけない、ってものではないんですよ。
当たり前ですけどね。

輸血をする時に、血液型を確認する、とか。
注射をする時に、薬の名前と量をきちんと確認する、とか。
心臓が止まりそうな人がいたら、心電図モニターをつけて、
観察しなければいけない
、とか。

ま、そういう感じでしょうかね、普通に解釈すれば。

手術の場合であれば、教科書に書いてあるような手順で
きちんとやる
、とか。
自分勝手に勝手にやって、失敗したら、それは問題があるよ、とか。
そういう事になるんでしょうかねー。

で、解説に出てくる「ガイドライン」っていうのはね。
世の中にはたくさんの病気があって、それぞれに対して
いろんな治療法があるんですよ。
いろんな医者が勝手に治療して、効果がいまいち、とか
そういう事があると、患者にとって困りますよね。

でも、病気もたーくさんあるし、教科書もたーくさんあるし。
医学も昔と違って、細分化、専門化が進んでいますから。
どの病気に対して、どんな治療をしたら良いか、って
判断に迷う事もたくさんあるんですよ、正直。

そいで出てきたのが、「ガイドライン」っていうものなんですよ。

これは、日本で各分野のトップクラスの専門家達が集まって、
世界中の研究データーを総合して、この病気、こういう状態だったら、
こういう治療をしたら、最も効果がありますよ。
とか、そういう事を示した「教科書」みたいもんですよ。

教科書って言っても、ピンからキリまでありますし。
昔は良い教科書だったけど、今になったら時代遅れって物もありますし。
治療とか診断とかに関しては、「最新のガイドライン」っていうのが、
最もオーソドックスなものになっています。

それで、今回の判例なんですけどね。
緊急のくも膜下出血の手術」をするって事は、
まあ脳外科医としては
一人前の人って事でしょうね、普通。
リスクも非常に高いですし。
脳外科を専門にやって、10年以上のキャリアでしょうね、普通。

で、今回の手術は日本で一般的に行われている、
チマメ状動脈瘤に対するクリッピング術の方法
だ、と。
更に、日本のトップクラスの脳外科医の専門家達が書いた
当時の最新のガイドラインにも、チマメ状動脈瘤に対するクリッピング術
の手術の時に「頸部頸動脈の確保、内径動脈近位部の十分な確保等の
術中破裂が生じた場合の止血を容易にするための措置を講ずべき」
とは、書いていない、
と。

でも、裁判官の判断は、それをしなきゃ
医師の注意義務違反」だ、と。

明らかにおかしいでしょ、それ。
その判断基準は、一体何なんですか?
医療に関しては素人の裁判官が、
何を基準にそんな事言ってるんですか?

>ガイドラインの記載内容は医療水準を認定する上で
参考となりうるものの、ガイドラインが医療機関に要求される
医療水準に基づく治療法等をすべて網羅しているとは解されな
いから、ガイドラインに記載がないことは注意義務の存在を否
定する根拠とはならない。


ま、そりゃあガイドラインが治療法全てを網羅しているとは限りませんよ。
でも、じゃあ、単なる普通の病院で働く一医師が、
ガイドラインでも網羅できない、
細かい疾患の細かい術式まで全て網羅しなきゃ、
訴えられて負ける
って事ですかね。

これだけ、医療が専門化、細分化されたら、単なる医師
それら全てを網羅するのは、「不可能」です。
その為に、ガイドラインがあるんです。

しかも、今回の件は「緊急手術」なんですよ。
もう既にくも膜下出血になって、激しい頭痛が出てるんですよ。
今すぐ手術しなければ、死ぬかもしれないんですよ。

そんな中で、ガイドラインにも書いていない、日本中でたくさんの
ベテランの脳外科医も行っている一般的な手術の方法で手術
をしても、
医師の注意義務違反」になるんですか?

一般の病院で働く一医師に対して、日本でトップクラスの専門家以上の
スーパーマン医師レベルを求めている、って事ですか?


一体、医師の注意義務違反って何なんでしょうかねー。
医療に関して素人の一裁判官が、注意義務の基準としての
医療水準を勝手に判断しても良いものなんでしょうかねー。

注意義務の基準としての医療水準」が「日本でトップクラスの専門家以上
って事になるんでしょうねー、この裁判官にかかれば。

こんな判例ばかり出るようであれば、医者はみんな辞めますよ、ホントに。


もし、脳外科の先生がこの記事を見ていらっしゃって、
おかしい所があったら、指摘していただけるとありがたいです。
個別の解説なんかも、よろしければお願いします。
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