現役医師、循環器内科医(Dr. I)が医療について、詳しくわかりやすく解説! 引用、転載は自由ですが、その際は必ず引用元を明記して下さいね!
長崎心室細動(VF)事件
心室細動(VF)」っていうのは、別名「心臓痙攣
とも言われる、循環器の病気なんです。
今までに、医療訴訟の件でこのブログでもいろんな記事を書いて、
個別の疾患、治療に対して解説をしてきましたが。
産科や脳外科等、循環器内科医の私にとっては
専門外の事が多かったわけです。
しかし、今回「心室細動(VF)」っていう、
循環器の病気に関して医療訴訟が起こされたようなので。
これに対して、医学的な解説を行っていきたいと思います。

やぶ医師」ではありますが、
一応「循環器内科専門医」を持っていますのでw

ネタ元は、いつもお世話になっております。
「新小児科医のつぶやき」の「長崎除細動事件」です。

遺族が賠償求め提訴 奈良尾病院で「除細動遅れ死亡」

二〇〇五年二月、新上五島町の県離島医療圏組合奈良尾病院に
入院していた女性=当時(70)=が心室細動で死亡したのは
除細動の遅れなど病院側の過失が原因として、
遺族ら九人が五日までに、同組合に損害賠償約四千二百万円の
支払いを求める訴訟を長崎地裁に起こした。
第一回口頭弁論は四月十七日。

訴えによると、女性は同年二月十二日、
体調を崩し血圧が高いことから同病院に入院。
十四日午前六時半ころ、病院内のトイレで倒れているのを
入院患者が発見した。
駆け付けた看護師の呼び掛けに「はい」と答えたが、
同三十四分に心室細動の波形が確認された。

医師らは心臓マッサージをした後、同四十三分に
電気的除細動器でショックを与え、除細動に一回成功。
しかし、心臓の収縮力が次第に衰え、同七時五十分に死亡した。
死因は慢性心不全による心室細動だった。

原告側は「除細動が早期に行われていれば生存の可能性があった」と主張。
病院側は「適正に処置したと認識している」としている。

心室細動心臓が不規則に細かく収縮と緩みを繰り返す状態。
心臓のポンプ作用が失われて心肺停止につながる。
この心室細動を除去することが除細動
除細動による救命率は、心停止から一分以内なら90%と高いが、
五分で約50%、十分で約10%、十二分を超えると数%に低下するという。

〇四年七月の厚労省通知で、従来は医師や救急救命士だけが
使えた自動体外式除細動器(AED)の一般使用を解禁。
県によると、昨年八月現在、県内計百十七の公共施設に設置されている。


「2007.3.6長崎新聞」

まずは、医学用語の解説。

心室細動(VF)

心臓っていうのは、血液を体に送り出す
ポンプ」の役割をしている臓器なんです。
で、心臓は「心筋」っていう筋肉でできているんです。

牛の乳搾りを思い出して頂ければ、わかると思うんですが。
牛のおっぱいを適当に押しても、牛の乳は出てきませんよね。
牛の乳を上の方から、ぎゅーっと順に力を入れて絞らないと
牛のお乳は出てきませんよね。

それと同じように、心臓っていうのは、心筋細胞
規則正しく順番に動いているから、
血液を送り出す事ができる
んですよ。

心臓止まったら、血液を送り出すことができないのは、
みなさんわかると思うんですが。
止まっていなくても、心臓筋肉がばらばらに動いていたら
血液を送り出せないんですよ。
これが、「心室細動(VF)」って状態なんです。

別名、「心臓けいれん」って呼び方をする時もあります。
ぶるぶるけいれんしているだけだから、
血液を送り出す事ができないんです。

そして、「心室細動(VF)」になった場合。
放っておいて、勝手に心臓が普通に脈打つって事はないんです。
電気的除細動をしないと、戻らないんですよ。
ま、電気ショックですかね、わかりやすく言うと。
文章に出てくる「除細動」っていうのは、この事です。

ちなみに、心室細動(VF)除細動に関しては、
こちらの記事も参考にしてくださいね!

「集中治療室での一場面」

血圧、っていうのは心臓血液を送り出す圧力なんですが。
心臓が止まったら、当然血圧は0です。
腎臓肝臓等、主要な臓器に血液を送る事ができる血圧、
っていうのは、だいたい血圧80って言われています。
」っていうのは、最も大事な臓器ですから。
血圧が60位でも、なんとかにだけは血液を流そう、
って人間の体は働くんですが。
さすがに、血圧が60を切ったら、脳にも
十分な血液(酸素)を送り届ける事はできません。

」というのは、酸素が十分にないと
すぐに駄目になっちゃう臓器なので。
5〜10分経つと、ほとんどの脳細胞が死んでしまって、
脳死状態になってしまいます。

心室細動(VF)っていうのは、ほとんど血液を
送り出す事ができていない状態なので。
だいたい血圧0とか10とか、その位、
って思って貰えば良いと思います。


心臓マッサージ

心臓が止まっている人や、心室細動(VF)等になって、
血液を十分に送り出す事ができない人に対して、
他の人間が、胸の上から手で心臓を押してあげる手技です。

写真だとこんな感じですね。
「心臓マッサージの方法」

心臓マッサージを適切に行うと、「血圧60」はキープできます。
血圧60って言うのは、上でも書いた、
脳に血液を送り出せる最低限の血圧」です。
上手な人がやれば、血圧80位までは出せるんですが。
トレーニングをちょっと積めば、誰でも血圧60位は、
簡単に出す事ができます。

というか、血圧60ないのであれば、脳に血が行かないので、
意味がないんですけどね。

ここまでを基礎知識として、本文を解説していきます。


原告側は
除細動が早期に行われていれば生存の可能性があった」
と、主張していますね。

この訴訟の争点としては、
もっと早く除細動を行っていれば、患者を助けることができたか
って点だと思います。

遺族側がもっと早く除細動をしたら助かった、
って言っている根拠として。

除細動による救命率は、心停止から一分以内なら90%と高いが、
五分で約50%、十分で約10%、十二分を超えると数%に低下する。


って、事だと思います。

これが間違っている、って訳ではないんですが。
もっと細かく見ていくと、今回の件には当てはまらないんですよ。

わかりやすく図にすると

  心室細動(VF)
→ 血圧10位
→ 血圧60以下が続くと、脳に血(酸素)が行かない
→ 約10分
→ 脳死、死亡


という経過になるんです。
心室細動(VF)になって、放っておかれたらね。

でも、今回のケースでは

  心室細動(VF)
 心臓マッサージ、人工呼吸を施行
→ 血圧60キープ

→ 脳に血(酸素)はなんとか届く
→ 脳死は免れる


って事になりますから。

今回のケースでは、患者を発見してすぐに、
心臓マッサージ人工呼吸などの心肺蘇生法(CPR)
行っているようですからね。

行ったのは、一般の人達ではなく。
医療に関しては専門家の医師
当直の医師が来る前は、看護師だったのかもしれませんが。
どちらも、医療の専門家ですから。
一般の人達がやる心肺蘇生法(CPR)よりも、
しっかりした事をやっていると思われますので。
心臓マッサージで、血圧60はキープできていると思います。

心臓マッサージ人工呼吸血圧60キープできて、
肺に酸素も送る事ができたならば。
理論上は、10分と言わず、30分でも、1時間でも、
脳に酸素を送って、救命は可能です。

実際、倒れてからすぐに適切な心肺蘇生(CPR)を行って、
病院に着くまで1時間位かかっても、その後治療して、
社会復帰した、って人もいますからね。

心室細動(VF)になって、そのまま「放っておいたら」、
約10分経つとほとんどは脳死になりますが。
適切なCPR(心肺蘇生法を行えば、そうはならないんですよ。

今回のケースでは、医師達は適切なCPR(心肺蘇生法
行っているようですから。
過失には当たらないと、私は思います。


生活習慣病になって悪くなったら、心筋梗塞などの病気になって、
心室細動が起きて突然死してしまうかもしれませんよ。
そうならない為に、これを読んで予防してね!


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