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現役医師、循環器内科医(Dr. I)が医療について、詳しくわかりやすく解説するブログ。 引用、転載は自由ですが、その際は必ず引用元を明記して下さいね!
加古川、心筋梗塞事件
4/10、心筋梗塞に関する、ある判決が出たんですが。
全く納得のいかない判決でしたね。
他の方のブログやm3でもいろいろ話されていましたが。
心筋梗塞」っていうのは、循環器の専門分野なので、
それに関して、ちょっと記事にしてみますね。


加古川市に3900万円賠償命令 心筋梗塞の男性死亡

兵庫県加古川市の市立加古川市民病院で03年、
急性心筋梗塞(しんきんこうそく)で運ばれた
男性が死亡したことを巡り、医師が効果的治療が
可能な病院への転送を怠ったのが原因だとして、
妻ら遺族4人が同市を相手取り、慰謝料など
計約3900万円を求めた訴訟の判決が10日、
神戸地裁であった。

橋詰均裁判長は「効果的な治療を受けていれば
90%程度の確率で助かった」として、
請求通り約3900万円を支払うよう同市に命じた。

判決によると、男性(当時64)は03年3月30日、
自宅で心筋梗塞の症状が出たため、
午後0時15分ごろ、妻が同病院に連れて行った。
担当医師は同0時40分ごろ、急性心筋梗塞と診断して
点滴を始めたが、症状が変わらないため、
同1時50分ごろ、効果があるとされる
経皮的冠動脈再建術PCI)が可能な
同県高砂市の病院への転送を要請した。

しかし男性の容体は悪化し、同3時35分ごろに
加古川市民病院で死亡した。
判決は「約70分も転送措置が遅れており、
医師に過失があると言わざるを得ない」とした。

樽本庄一市長は「非常に厳しい判決と受け止めている。
今後の対応は判決を検討して判断したい」とコメントした。


asahi.com:2007年04月10日


まずは、病気の解説


心臓っていうのは、心筋っていう筋肉でできています。
で、心臓の中には血液が入っていて、
心臓が拍動する事によって体に血液を送り出す。
ポンプ」の役割をしています。

心筋梗塞っていうのは、心臓の表面にある、
心臓血液酸素)を送ってあげる動脈(冠動脈)
が詰まる病気です。

心臓に行く血管が詰まると、そこに血液が流れなくなるから。
酸素が送られなくなるんですよ。
そしたら、心臓の筋肉(心筋)の一部が死んじゃうんです。
酸素が行かなくなるから。

心臓の一部が死んじゃうから。
やっぱり、痛みって出るんですよね。
ま、当たり前と言えば当たり前ですけど。
で、心臓っていうのは、にあるので。
胸が痛くなりますね、普通。

普通は心筋梗塞になると、胸の痛みがかなり強いので。
「胸が痛い。」って病院に来るんですよ。
救急車で運ばれる人もいるし。
場合によっては、歩いて来る人もいますけどね。
我慢強い人は、そのまま我慢する人もいますけど。
ほとんどの人は、すぐに病院に来ます。


心臓に行く血管(冠動脈)が詰まると、
心臓血液が行かなくなるから。
そのまま放っておくと、どんどん心筋が死んでいくんですが。
いっぺんに全部、死んじゃうわけではないんです。
徐々に心筋が死んでいって、
6時間
で、かなりの部分が死んで。
だいたい24時間位で、
ほぼ全ての心筋細胞が死んでしまうんです。
その血管の先にある、心臓の筋肉が。

で、治療は、って言うと。
完全に心臓の筋肉が死ぬ前に、心臓の血管(冠動脈)を
広げる治療
をしてあげれば、
心筋細胞の一部を助ける事ができるので。
心筋梗塞になって、24時間以内であれば、
心臓の血管(冠動脈)を広げる治療をします。
できれば、6時間以内が良いんですけどね、ホントは。

これが、カテーテル治療経皮的冠動脈再建術:PCI)
っていう治療です。
血管内手術って言葉を使う事もあります。


この治療ができてから、20~30年位経つんですかね。
その前までは、心筋梗塞の治療は、
安静とか、薬を点滴するしかなかったんで。
心筋梗塞死亡率は30~50%位あったんですが。

カテーテル治療経皮的冠動脈再建術:PCI)
って治療ができて、
最近のデーターでは、心筋梗塞死亡率
10~20%位だと思います。


この裁判官が言っているデーターってのは、
心筋梗塞の患者でカテーテル治療
経皮的冠動脈再建術:PCI)

行った人の死亡率は約10%
ってデーターを使ったのだと思いますが。

心筋梗塞死ぬ人って、半分くらいは、
カテーテル治療を行う前

病院に着く前とか、着いた直後とかに、
亡くなっているんですよ。

病院に着く前に亡くなった人の場合。
日本では、解剖が行われていないので。
実際には、死因はわからないんです。

だから、日本で心筋梗塞の死亡率は「恐らく
10~20%位、って事になります。


では、わかりやすくする為に、全然違うんですけど、
受験生の例えをあげてみましょうか。

佐々木ゼミナール」って予備校があって。
そこの予備校の講義を受講すると、
京東大学に合格する確率
90%だとします。

そこに通っていない他の学生の合格率は、
70%だとします。

ある受験生A君が、受験の前の日に佐々木ゼミナール
講義を受講しようとしたんだけど。
予備校の講義が休講していた。

それで、受験当日。
A君東大を受験して落ちた

そして、こう訴えました。
「佐々木ゼミナールで講義を受ければ、
90%の確率で受かったはずだ。
でも受けられなかった。
私が東大に落ちたのは、佐々木ゼミナールのせいだ。
慰謝料と逸失利益を返せ。」


こんな裁判があったとします。
A君が勝つ可能性、あると思いますか?

ないですよね、どう考えても。

A君が東大に落ちたのは、自分の実力がなかったからですから。

佐々木ゼミナール」の講義を受ければ、
確かに東大の合格率が上がるけど。

でも、合格ライン100点満点70点だとして。
元々90点取れる力のあるやつは、
佐々木ゼミナールを受講しなくても受かるし
元々30点くらいのやつは、佐々木ゼミナールで
講義を受けても、受からないんですよ
、残念ながら。

元々65点とか68点位の人達が、
佐々木ゼミナールを受講して、受験テクニックを学んだら
それで、合格率が上がる、って事ですから。

自分の実力が足りなかったからって、
予備校のせいにするのは、明らかにおかしいですよね。



心筋梗塞でも、同じなんですよ。

すごい重症心筋梗塞の患者の場合。
どんな治療をしても、助からない事が多いんです。
昔ながらの、点滴と安静だけの保存療法をしても。
最新のカテーテル治療経皮的冠動脈再建術:PCI)
を行ってもです。

元々軽症心筋梗塞であれば、逆に
点滴と安静だけの保存療法でも、
最新のカテーテル治療経皮的冠動脈再建術:PCI)
でも、生き残るんですよ。

すごく軽症でも、重症でもない
どっちとも言えないような症例で、
最新のカテーテル治療経皮的冠動脈再建術:PCI)
をすれば助かったって症例が多いんですよ、実際は。

もちろん、ものすごーく重症のの心筋梗塞で、
最新のカテーテル治療経皮的冠動脈再建術:PCI)
をしたから助かった、って人も大勢いますけどね。


でも、ものすごく重症心筋梗塞
専門用語で言うとKillip IVって言う、
重症度でいくと1~4まであって、一番重症心筋梗塞

こういう人の場合、現在の治療でも
生存率は、50%か、良い施設でもせいぜい60%位
だいたい、半分は死ぬんですよ。

亡くなった方が、Killip分類で、どの位の重症度だったかは
わかりませんけどね、この記事からは。

でも、簡単に言うと、
元々重症のの心筋梗塞だったのであれば、
カテーテル治療経皮的冠動脈再建術:PCI)
を行っても、助からなかった可能性は高いですよ。

ましてや、たった70分早かっただけで、
90%は助かった
なんて事は、言えませんよ。


そんなの、東大に落ちた受験生が
難癖つけてるのと、同じレベル
です、はっきり言って。

医学的には、絶対に納得できない判決です、これ。


ちょっと長くなったので、今回はここまでとして。
今度、より専門的な、循環器内科医としての視点から、
この記事を分析
してみますね。

より詳しい、次の記事はこちら!
→ 「加古川、心筋梗塞事件2」

衝撃の真実はこちら!
→ 「加古川、心筋梗塞事件。衝撃の事実」


心筋梗塞に関しては、ここらへんも
参考にしてみてね!

「やぶ医師のぼやき:心筋梗塞」

「医学の基礎知識:心筋梗塞」

心筋梗塞になりたくなかったら、
これを読んで生活習慣病を予防してね!

「日本一わかりやすい!「糖尿病」

日本一わかりやすい!「高血圧」

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