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現役医師、循環器内科医(Dr. I)が医療について、詳しくわかりやすく解説するブログ。 引用、転載は自由ですが、その際は必ず引用元を明記して下さいね!
点滴作り置きの問題、1
谷本整形」で、点滴をした後に具合が悪くなって、
熱が出たり、吐き気がしたりして、死人まで出ている。
っていう話題が、いろんなマスコミで
報道されていますよね。

なんとなく、「点滴作り置き」が諸悪の根元だ。
みたいな報道がされていますけど。
そもそも、「点滴作り置き」っていうのがなんなのか
どこが悪いのか、っていうことが、
一般の人にわかりやすく解説しているような
報道がないように感じたので。
ちょっと、ここで解説していきますね。

今回は、点滴作り置きしたら、何が悪いのか
っていう事を中心に書いてきますけど。
実は、本当の問題点というか、
何故点滴作り置きしなければならなかったのか。」
っていう根本的な問題点に関しては、
どのマスコミでも報道されていないんですよ。

それに関しては、この後の記事にでも書いていくとして。
今回は、その前に、問題点の整理として、
点滴作り置き」についての解説をしていきます。


昨日、今日の報道では「セラチア菌」という細菌が、
血液の中から検出されたようなので。
おそらく、「セラチア菌」という細菌
体の中に入って「敗血症、菌血症」となって、
こういった症状が出たり、
死人が出たのだと思われます。

本題と離れちゃうので、今回は解説しませんけど。
セラチア菌」っていうのは、2002年だったかな。
院内感染で問題になった細菌ですね。

詳しくは、このサイトなんかも見てね!
→ 『ドクトルアウンの気になる健康情報:セラチア菌』


まずは、基礎知識

細菌っていうのは、はっきり言って、
どこにでもいるもんなんですよ。
特に、「手の平」っていうのは、
いろんな所を触ったりするもんだから。
とってもたくさんの細菌がいます。

そいで、細菌が体の中(血液中)に入ったら、
敗血症、菌血症」っていう病気になって、
高熱が出たりして大変な事になります。

体の中に点滴を入れる時は、特にそうなんだけど。
そうでなくても、病院のように、体が弱っていて、
病気になりやすいような患者さんが
たくさんいるような所では、
きちんと「手洗い」をしなさい。
っていう事は、医療関係者というか、
一般の人達の中でも常識です。

手洗い」って言っても、水で簡単に洗っただけでは、
爪やしわの中にいる細菌が、水分を吸収して
手の表面に出てくるだけで、
かえって細菌が多くなる、って事もあるので。

石けん等を使って、時間をかけて正しい方法で
手洗い
をしないといけないんですけどね。
正しい方法で、手洗いをすれば、
手にいる細菌の数は、かなり減ります。

ただし、細菌の数を「ゼロ」にする。
っていう事は非常に難しいです。
人間の体とか、生き物の場合はね。

何百度っていう高温にする、とか。
毒ガスみたいなガスを、
人間にかけるわけにいかんでしょ。
全ての細菌を殺して、ゼロにするとしたら、
それをやらなきゃいけないんで。
生き物に関しては、基本的には無理なんですわ。

仮に、一時的に細菌の数がゼロになったとしても、
皮膚の汗腺から時間が経てば、細菌が出てくるし。
どこかを触った瞬間に、そこにいる細菌が、
手にくっついてしまいますからね。

大事なのは、「細菌の数を減らす
っていう事です。


あくまでも既存の報道からの情報ですが、
谷本整形」の話を見る限り。
清潔操作」っていうのが、
非常に雑だったようですね。

これは、点滴作り置き、以前の問題です。

2008年6月13日、毎日新聞の報道によると、

>院内感染対策の指針がなく、作り置きした薬剤を
 事務机に置いたり、看護師がタオルを使い回しするなど、
 ずさんな衛生管理が明らかになった。

>医療機関では手洗い後は紙タオルや
 使い捨ての滅菌布を使うのが普通だが、
 布製タオルを掛けて看護師が共有使用していた。


という事だそうですから。
手洗いをして、仮に手がきれいになっても、
タオルを共有していますからね。
このタオルには、細菌がたくさんいるんで。
せっかく、手洗いをして手がきれいになったのに、
また手に、たくさんの細菌が付いちゃうんですよ。

これが、まず1つ目の問題点ですね。


そして、やっと本題。
点滴作り置き」についてです。

元々ある、とか点滴のセットに関しては。
これは、「滅菌」といって細菌を殺していますから。
細菌の数は「ゼロ」です。

そいで、で注射器を使って、薬を入れて。
点滴のセットでつないで。
患者さんに針を刺して、点滴をつないで、
体の中に薬を入れていきます。

問題になっているのは、「点滴の作り置き
ですから、これをどうやってやるのか。
っていう事を、もっと具体的に書くと。

まずは、薬が入っている小さい瓶から、
注射器を使って、薬を吸います。
そして、「谷本整形」の場合だったら、
生理食塩水」の中に、注射器を使って薬を入れます。

生理食塩水」も「点滴の薬」も、
この場合は、ノイロトロピンって薬と
メチコバールっていう薬のようですけど。
中は清潔(無菌)です。

でも、薬を注射器で外に出して、
それを生理食塩水の中に入れる時に、
細菌が一緒に入る可能性があるんですよ。

」を使っていますからね。
直接、手で針や薬を触る、
っていう事はないんですけどね。
でも、やっぱり細菌がゼロのまま、
っていうのは難しいです。

「手」の細菌をゼロにする事は、
基本的にはできませんから。
大事なのは、
手の細菌をなるべく減らす。

そして、仮に細菌が薬の中に入ったとしても、
細菌が繁殖して増える前に、薬を使う。
っていう事が大事になります。


細菌っていうのは、放って置いたら
どんどん数が増えちゃいます。
特に温度が高いと、ものすごい勢いで増えてしまいます。

例えば、常温(25℃)では一時間で2倍になるとすると。
細菌が最初は1個しかなかったけど、
1時間経てば、2倍になって2個に。
2時間なら4個。
3時間なら8個。
4時間で16個。
5時間で32個。
10時間なら1、024個。
20時間なら1、048、576個(約100万個)
24時間なら約1600万個


っていう具合に、とんでもないくらいの
勢いで増えていっちゃいます。

冷蔵庫に入れて、5℃にしておくと、
3時間で2倍に増えるとすると。

細菌の数が最初は1個だとすると。
3時間で2個。
6時間で4個。
9時間で8個。
18時間で64個。
24時間で256個。


って感じになるんで。
細菌が増える速度は、相当遅くなります。


手洗いをきちんとしても、
細菌の数はゼロにはなりませんけど。
仮に1/10になるとすると。

手洗いをしていたら、最初の細菌の数は1個だけど。
手洗いして、汚いタオルで手を拭いて、
手洗いしていないのと同じ様な状態なら、
細菌の数は10倍の10個って事になります。


点滴作り置きっていうのは、
事前に薬を点滴の中に入れて、患者に使うまで置いておく。
っていう事で、基本的にはいけないことなんですけど。
点滴を作ったら、何分とか何時間以内に、
その点滴を使わなければいけません。

という、具体的な決まりはありません

私は、点滴作り置きを推奨するつもりは
全くありませんけど。
わかりやすく、例え話をあげてみると。

例)
朝の9時に、手をきれいに洗って、点滴を作った。
そして、それをすぐに使った。


本来であれば、細菌の数がゼロ
っていうのが理想だとは思うんですけど。
最初に、細菌1個入ってしまった。
とすると、体の中に入る細菌の数は、
1個ですね、当然。


朝の9時に、手をきれいに洗って、点滴を作った。
それを12時に使った。


とすると。

上に書いたとおり、一時間で細菌
2倍の量に増えるとすると。

9時に作って3時間ですから。
常温(25℃)であれば、
細菌の数は、1個から8個に増えます。
冷蔵庫に入れておけば、3時間で2倍だから。
細菌の数は2個です。

点滴作り置きといっても、3時間であれば、
細菌の数は1個から2個8個に増えるだけです。


ところが、この谷本整形の例。
2008年6月13日の読売新聞の報道によると

>体調不良を訴えた患者23人のうち16人は、
 今月9日に点滴を受けて発症していたことが
 県の調査でわかった。

 9日は月曜だったことから、県は週末の土曜に
 作り置きされた点滴液が休診日の日曜を挟んで
 丸1日放置されて細菌が増殖、
 被害が集中したとみている。

 県によると、作り置きして余った点滴液は、
 夜間、空調の切れた点滴室に置いたままにされ、
 次の診療日に使うことがあったという。


って事だそうだから。
手を洗ったけど、不潔なタオルで拭いて。
点滴を作ってからは、常温(25℃)
丸1日経った、っていう事にして。
そいで細菌の数を計算してみると。

最初は、手洗いをしていない状態と同じだから、
最初から細菌の数は10倍の10個

そして、それが常温で丸1日って事だから、
便宜的に24時間として計算すると。
24時間で1600万倍だから、
10x1600万=1億6000万個

細菌の数、1億6000万個ですか(汗)。

しかも、土曜日に作って、月曜日に使ったなら、
本当は24時間じゃなくて、それ以上だから。
数億とか、数十億になる計算っすかね。

まあ、この細菌(セラチア菌)の数の増え方が、
こんなに早いのか
、っていう問題とか。
そういう事はあると思うけど。

点滴作り置きして、丸1日常温で置いておく。
っていうのが、どれだけ細菌の数が増えて悪いのか
っていう「イメージ」はわかったかな、と思います。


ちなみに。
何度も言うようですが、私は点滴作り置き
奨励するつもりは全くないんですよ。
はっきり言って、この谷本整形は問題外ですが。

きちんと手洗いをして、点滴を作って、
冷蔵庫で保存
すれば、
3時間経っても、細菌の数は2個です。
からね。

そこら辺は、理解していただきたいですかね。

この事件の後に、おそらく厚生労働省から、
点滴作り置きはいけない」っていう
行政指導通達か、
そこらへんが出るとは思いますが。

看護師の内診問題でもそうですけど。
どの位の病院がやっているかは知りませんが、
一律に全部駄目。
っていうのは、問題があるように思えます。

30分なら良いけど、2時間なら駄目
とかっていう、きちんとしたルールを作るのは、
実際問題としては難しいし。
10分でも駄目だ
っていうなら、相応の看護師の数がいないと
絶対に無理
ですからね。

それをやらないで、厚労省が責任逃れの為だけに、
現場の事を考えない通達だけ出す

っていう事は、避けて貰いたいものですねー。


参照1:『2008年6月13日:毎日新聞』

三重・伊賀の点滴死亡:タオル使い回し 
谷本整形、ずさんな衛生管理

三重県伊賀市の「谷本整形」で点滴を受けた患者が
異常を訴え、73歳女性が死亡した問題で、
谷本広道院長が12日、診療所で報道陣の取材に応じ、
点滴薬剤の作り置きについて
「以前はたくさんやっていた」と述べた。

一方、県の立ち入り調査などで、院内感染対策の指針がなく、
作り置きした薬剤を事務机に置いたり、
看護師がタオルを使い回しするなど、
ずさんな衛生管理が明らかになった。

院長は「野戦病院のような診療所で、
多い時は(1日)350人の患者を診ている。
院内感染の発生率も高いと思う」と語った。
「昨年と一昨年に(今回と同じような被害が出た事案が)
2件あった」と明かした。

一方、立ち入り調査などによると、
診療所では毎朝、10~30人分の点滴薬剤を作製。
鎮痛剤の点滴の調合作業は待合ロビーの奥の
「中待合」の作業台と隣接する点滴室の2カ所で行い、
調合後は点滴室の事務机の上で
薬剤納品用の紙箱に入れて保管。
医療機関では手洗い後は紙タオルや
使い捨ての滅菌布を使うのが普通だが、
布製タオルを掛けて看護師が共有使用していた。




参照2:『2008年6月13日:読売新聞』
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?b=20080612-00000064-yom-soci

点滴治療後の体調不良、
被害は休診日後に集中…三重県調査


三重県伊賀市の整形外科医院「谷本整形」の
点滴治療による業務上過失傷害事件で、
体調不良を訴えた患者23人のうち16人は、
今月9日に点滴を受けて発症していたことが
県の調査でわかった。

9日は月曜だったことから、県は週末の土曜に
作り置きされた点滴液が休診日の日曜を挟んで
丸1日放置されて細菌が増殖、被害が集中したとみている。

県によると、作り置きして余った点滴液は、
夜間、空調の切れた点滴室に置いたままにされ、
次の診療日に使うことがあったという。
死亡した同市内の女性(73)も9日に点滴を受けていた。

一方、同医院の谷本広道院長が12日、
記者会見し、約2年前まで、看護師による
点滴液の作り置きを院長自身が知りながら、
常態的に行われていたことを認めた。

谷本院長は「今回の事件はすべて院長、
管理者の私の責任。裁きの来る日を待っています」
と患者らに謝罪。
そのうえで、「以前はそういうこと(作り置き)を
たくさんやっていたが、今回のような
大きな事件にはならなかった」と述べた。

2年前、点滴治療を受けた2人の患者が
気分が悪くなったのを機に、
「『そういうことをするな』と(看護師に)
言ったつもりだったが、徹底されていなかった」
と語った。

また、昨年10月、同医院での点滴後に
死亡した男性(85)について、谷本院長は
「事実関係がはっきりしておらず答えようがないが、
点滴によって死亡したということはない」
点滴との因果関係を否定した。



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