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現役医師、循環器内科医(Dr. I)が医療について、詳しくわかりやすく解説するブログ。 引用、転載は自由ですが、その際は必ず引用元を明記して下さいね!
点滴作り置きは、「悪」か?
谷本整形」の点滴作り置きの問題に関しては。
最初に書いた記事、
『点滴作り置きの問題、1』
の時から、単純に点滴作り置き」はいけない
という視点だけでは駄目だ。

それだけでなく、診療報酬の問題や、
衛生、安全管理にお金をかけても、目先のメリットがない
とか、そういう「システム」の事についても考えなければいけない。
という事は、何度もこのブログに書いている通りです。

ただ、
『「点滴作り置き」、6/17までのまとめ』
の記事にも書いたとおり。

1,安全、衛生管理を怠った。
2,医師、看護師の能力以上の患者を受け入れてしまった。


という事に関しては、今まであった情報からも、
谷本整形には非があるようなので。
これに関しては、医師の側からも、
いけないものはいけない。
という事を言っていくべきだ、とは思います。


点滴作り置きそのものは、さほど悪くない。
というのは、最初からこのブログでも書いていますけど。
それに関して、専門家でもなんでもない、
私一人が言っていても、何の説得力もないので。

新聞等に出ている、「専門家」の意見なども紹介して
点滴作り置き全てがいけないという訳ではない。
という事について、書いていきましょうか。

まずは、安全や衛生を管理する親玉
厚生労働省」。
その中でも、最もそういう事に詳しいと思われる、
厚生労働省医療安全推進室の意見が、
6月11日の産経新聞に載っていたので、紹介しましょう。


伊賀・患者死亡 点滴液を作り置き 
県警、医師や看護師ら聴取

厚生労働省医療安全推進室は
点滴の作り置きを禁じる規則はないが、
衛生的な環境で、少なくとも
1日以内に使用するのが医学的な常識。
県から詳しい状況の報告を待ちたい」
と話している。


『2008年6月11日:産経新聞』


という事ですから。
厚生労働省医療安全推進室の意見としては、
点滴作り置き」自体が悪いんじゃなくて、
不衛生な状態で、1日以上経った点滴を
使ってはいけませんよ。

っていう事ですね。


次に、名古屋市立大学薬学部(臨床薬学)の
木村和哲教授の意見。


変調5人から細菌 伊賀の医院
ずさん管理 常態化 点滴1日100人超

医療現場での薬剤の取り扱いに詳しい
名古屋市立大学薬学部の木村和哲教授(臨床薬学)は、
点滴は調剤後にすぐに使用するのが原則で、
品質が保持できる清潔な環境でも24時間以内が限度。
調剤の時点で雑菌混入の可能性があるうえ、
時間がたつにつれて菌は増殖する」と指摘。

一方、厚生労働省によると、
薬剤の安全管理は医師法に定められているものの、
点滴の作り置きを禁じる法律はない。


『2008年6月12日 読売新聞』


この先生の意見も、
不衛生な状態で24時間以上経ったら駄目だよ。
っていう意見ですね。

厚生労働省と、薬学部の大学教授という、
2人の専門家の意見をまとめると。

不衛生な状態で24時間以上経った
点滴を使ってはいけない。

っていう事ですかね。

谷本整形」の場合は、丸1日以上、
常温で事務の机の上とか、不衛生な状態で放置していた

っていう事ですから。
これは、問題がある、って言ってもよいでしょう。

でも、逆に言うと、専門家2人とも、
「清潔な状態で24時間以内ならOK。」
っ言っているともとれませんかねー。


私は循環器内科医ですけど。
循環器っていうのは、心臓を主に扱っている科なので。
入院患者には、心不全の患者さんとかが多いんですよ。

心不全っていうのは、心臓の機能が悪くて、
十分に血液を送り出せない状態が続いて。
肺や体に水が貯まって、苦しくなる等の症状が出る
病気というか、病態です。

そういう患者さんの場合は、点滴をするんですけど。
たくさんの点滴ができないんですよー。
だから「輸液ポンプ」とか「シリンジポンプ
っていう機械を使って。
一時間に20ccとか、一時間に2ccとか。
そういう、少ない量を機械で測定しながら、
点滴していくんですよ。

そういう場合っていうのは、一回に500ccとか、
50ccとかっていう点滴を作って。
輸液ポンプ」とか「シリンジポンプ」っていう
機械を使って、持続点滴をするんだけど。
一回の点滴が終わるまでに、丸1日くらいかかるんです。
こういうの、24時間持続点滴って言います。

点滴を作ってから24時間以内に使う。
っていうのと、
点滴を作ってすぐに使って、
持続で24時間使い続ける。

っていうのは、時間的には同じですよね。

でも、この24時間の持続点滴でも、
普通なら問題は起こらないんですよ。
清潔な操作で点滴を作ったり使ったりしていればね


前のブログでも書いたし、他の医者からの
コメントとかを見てもそうなんだけど。
谷本整形」の場合は、「点滴作り置き」が悪い、
っていうよりは、
清潔操作ができていなかったのが
悪かったんじゃないか

って、私は思います。


そいで、今日入った情報ですけど。
やっぱり、「清潔操作が不十分」だったようですね。

それに、谷本整形から回収した未使用の点滴薬剤と、
使用済みの点滴パックの残液
それと、体調不良になった患者が入院した
伊賀市内の別の2病院から出して貰った

その全部から、同じ菌
セラチア菌の一種「セラチア・リクファシエンス
っていうのが見つかったようですね。



点滴死亡>三重県、
「谷本整形」の院内感染と断定 
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080619-00000032-mai-soci


三重県伊賀市の診療所「谷本整形」で点滴治療を
受けた患者が体調不良を訴え1人が死亡した問題で、
三重県は19日、菌検査の結果、
入院患者の血液から検出された菌と、
9日に使用した点滴薬剤の残液から検出された菌が、
いずれも同じ種類のセラチア菌だったと発表した。
点滴液で使用していた綿からも同じ菌を検出。
また、綿の消毒消毒用アルコールを
使用していなかったことが分かり、県は不十分な
衛生管理の中での点滴治療による院内感染と断定した。

県は谷本整形から回収した未使用の点滴薬剤と、
使用済みの点滴パックの残液の菌検査とともに、
体調不良になった患者が入院した伊賀市内の
別の2病院から提供を受けた菌株の同定検査を進めていた。

その結果、いずれの菌もセラチア菌の一種
「セラチア・リクファシエンス」
であることが分かったという。

また看護師らからの聴き取りで、
点滴の注入個所を消毒する綿に消毒用アルコールより
消毒する力が弱い薬剤を使っていたことが判明。
使用の際の希釈基準は10~50倍なのに対し、
谷本整形では1000倍の希釈液を使用しており、
県は「ほとんど消毒能力はなかったとみられる」という。
これらのことから点滴治療の過程でセラチア菌が混入し、
長時間作り置きする間に菌が増殖したとみている。

計29人の被害者のうち、9日は死亡した1人を含め、
入院12人、通院2人と被害が集中。
入院患者のうち6人の血液からセラチア菌が検出された。


『2008年:6月19日:毎日新聞』


これだけの証拠が揃えば、
「谷本整形」の院内感染と断定して良いと思われます。

それと、血液の中からセラチア菌が見つかったのは、
5人じゃなくて、6人だったんですね。
すいません。

昨日までの情報では、清潔操作に難がありそうだ
というのは、
作り置きした薬剤を事務机に置いたり、
 看護師がタオルを使い回しするなど

っていう情報くらいしかなかったんですけど。

どうやら、綿の消毒消毒用アルコールを使わずに、
消毒用アルコールより消毒する力が弱い
消毒
を使っていたようですね。

これに関しては、時事通信の記事の方が詳しいです。



薄い消毒液使う=脱脂綿取り扱いは素手
点滴患者死亡・三重
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080619-00000098-jij-soci

三重県伊賀市の診療所「谷本整形」で
点滴を受けた患者らが腹痛などを訴え、
女性1人が死亡した事件で、同診療所が
点滴室の脱脂綿を消毒する際、
メーカーの基準より20倍以上も薄い消毒液を
使っていたことが19日、県の調べで分かった。

看護師らが脱脂綿を素手で取り扱っていたことも判明。
県はずさんな衛生管理が感染の原因になったとみて、
さらに詳しく調べている。

県健康福祉部によると、谷本整形では点滴室と
中待合室の2カ所で点滴液を調合。
注射針の消毒に使う脱脂綿を消毒する際、
中待合室では消毒用アルコールを、
点滴室では殺菌薬を使っていた。
セラチア菌が検出されたのは点滴室の綿だけだった。

点滴室の殺菌薬は「グルコン酸クロルヘキシジン」5%液。
メーカーの使用基準は「10~50倍希釈」
とされていたが、看護師らは1000倍に薄めて使っていた。

同部は「この濃度ではほとんど消毒効果がない」
としている。
 
県の調査に対し、看護師は
「中待合室では、患者の出入りが多く、アルコールを使っていた」
「アルコールだと皮膚が荒れることもあるため、
点滴室では(殺菌薬に)変えた」と証言。
県は、看護師らがアルコールの方が
消毒効果が高いことを認識しながら、
殺菌薬を使ったとみている。

脱脂綿は消毒液容器に入れ、
滅菌した水5リットルと殺菌薬5ccを混ぜて作り置きし、
綿が少なくなるたびに綿と殺菌薬を補充していた。
この際、看護師らは手袋やピンセットを使わずに
素手で扱っていたという。

これまでの調査で、県は脱脂綿のセラチア菌
注射針を通して点滴液に混入し、
作り置きにより増殖したとみている。


『2008年6月19日:時事通信』


はっきり言って、これはお粗末ですねー。

今の時代、感染とかそういうのには、
いくら気を遣っても遣いすぎることはない。
という位、きちんとやらなければならないと思いますが。

使い回しのタオルも酷いけど。

>脱脂綿は消毒液容器に入れ、
 滅菌した水5リットルと殺菌薬5ccを混ぜて作り置きし、
 綿が少なくなるたびに綿と殺菌薬を補充していた。


これ自体も、ちょっと時代遅れかと思うけどねー。

脱脂綿とか「酒精綿」っていうのは、
アルコールがしみた布なのですけどね。
これって、今の時代。
全部、完全に別々の物が多いんですよ。

具体的には、こんな感じ。
→ 『オキサメディカル:酒精綿』

このサイトの一番左の酒精綿を拡大したのがこれっす。

酒精綿


一個一個、それぞれの酒精綿
バラバラのパックに入っていますよね。
酒精綿が1枚ずつ包装されていますから。
感染のリスクもほとんどないし。
アルコールの濃度低下っていうのも、
心配する必要がありません。

一番右のやつは、1つの箱に、
酒精綿が10枚
入っているんだけど。
外来で、患者が何十人もいる、とか。
そういう時だったら、10枚でも、
あっという間に使っちゃうかねら。
これでも、ほとんど感染のリスクとかはなさそうです。

一枚一枚包装されていると、開封するのに
結構時間がかかちゃいますよね。
たくさんの患者さんがいるとこだったら、
こういうのでも、悪くないかな。
とは思います。


でもね。
消毒液の中でも繁殖する菌っていうのもあるから。
消毒の容器の中に消毒を入れて、
足りなくなったら補充する。
っていうやり方は、仮に消毒液が正しい濃度だとしても、
今の時代としては不十分だと思いますよ、私は。

病院の場合であれば、よっぽど古い病院以外は、
こういう事はやっていないと思います。

しかも、その継ぎ足した消毒液っていうのが、
何日前のか管理もされていない

っていう状態だったら、
そりゃあ、細菌が繁殖してもしょうがないでしょ。

もちろん、
メーカーの基準より20倍以上も薄い消毒
っていうのは、お話しにもならないですけどね。

100歩譲って、正しい濃度で
毎日交換
しなきゃだめでしょー。



そんな訳で、まとめると。

脱脂綿を消毒液容器に入れて、
綿が少なくなるたびに、綿と消毒薬を継ぎ足していた。
この消毒液の濃度が、ほとんど消毒効果が
ないくらい薄い濃度で。
しかも、継ぎ足し、継ぎ足しだから、
何日前の消毒液かわかんないような状態。

だから、消毒液の容器の中で、セラチア菌が繁殖して。
その容器の中にある、脱脂綿にセラチア菌が付着。

そのセラチア菌がくっついた脱脂綿で、
点滴の容器を拭いたので、
点滴の容器の表面にセラチア菌が付着。
その上から注射針を刺したから、
点滴液の中にセラチア菌が入った。

そして、それを使うまでに、
常温で丸1日以上の時間が経っていたから、
セラチア菌が大量に増殖して、
それが血液の中に入った。

結果として、「敗血症、菌血症」という状態になって、
29人の患者が具合悪くなって、1人が亡くなった。


こういう流れになると思います。


この中で最も問題になる点は、
消毒をする為の消毒液の容器の中で
セラチア菌を繁殖させてしまった。

という事だと思いますけどね、私は。


最も悪いのは、きちんと消毒しなかった
という、清潔操作が不十分だった点
『「点滴作り置き」、6/17までのまとめ』
で書いた表現を使うと、
「安全、衛生管理を怠った」
という事だと思います。

そして、24時間以上、不衛生な状態で放置
いわゆる「点滴作り置き」が加わって、
こういう結果になってしまった。

という事が言えるかと思います。


点滴作り置き」=悪という構図ではなくって。

清潔操作というのが最も重要。
それに、
点滴も、24時間以内ならさほど問題ない。

という点に、もっと注目すべきだと思いますよ。


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→ 『医者のホンネが丸わかり!(改)』

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