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現役医師、循環器内科医(Dr. I)が医療について、詳しくわかりやすく解説するブログ。 引用、転載は自由ですが、その際は必ず引用元を明記して下さいね!
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医療格差、病院間で死亡率3倍
日本の医療WHO(世界保健機関)で世界一だ、
と認定されているほど優秀です。

海外の文献などを読んでも、手術の成功率、死亡率
それに、私の専門の循環器で言えば、
心不全や心筋梗塞の病院内死亡率とか。
冠動脈という心臓の血管内治療の成功率、等。
世界と比べても、日本の方が優秀だな、
と思う事も、多々あります。

個人的にも、医療関係者は優秀な人も多いし、
頑張っているとは思います。

ただ、一生懸命にやった結果が最良だ、
というのは、必ずしも限りません
から。
自分がやった治療が最善なのか、
という事を確認するためには、
結果」がどうなっているのか、
比較検討する必要があります。

でも、残念ながら、日本では情報を公開する、
というのが、あまり行われておりません。

一握りの人間が、既得権益を守るために
情報を独占しているのか。
あるいは、そういう文化なのか、
理由はよくわかりませんけど。

日本では、欧米に比べて、情報公開は遅れています。


だから、自分では最良の医療をやっている、
自分の病院最高の医療をやっている、と思っても、
実際に結果的には死亡率が高いのか低いのか。
成功率は高いのか低いのか、という事が
よくわからなかったんですよ。
残念ながら。

でも、今回、病院名は非公開とはいえ、
病院毎の死亡率が発表されたんですよ。

こういうのがわかると、自分の病院
日本の他の病院と比べて、死亡率が低いから
良い医療をやってるんだ、という事がわかって、
今までやっている医療に自信が持てたり。

逆に、死亡率が高いのは、どこかに原因があるからだ。
って事で、もっと勉強するようになって、
より良い医療が出来るようになる、
というメリットがあります。

だから、とても良い事だと思いますよ。

本日は、医療関係者からは非常に評判の悪い、
毎日新聞」の記事からの引用です。



明日へのカルテ:第2部・
医療格差をなくすには/1 
死亡率、最大3倍差も


◇70病院、入院患者 
医師ら研究班、日常データ比較


入院患者死亡率が最も高い病院
平均的な病院の1・6倍に達し、
逆に最低の病院は0・6倍--。

文部科学省研究班(班長、上原鳴夫・
東北大医学部教授)と、「医療の質・安全学会」
などで作る「医療安全全国共同行動企画委員会」
が、全国70病院患者が入院中に死亡した率を
比較可能な形で算出したところ、
大きな格差が存在することが明らかになった。

病院名は非公表だが、こうした
データが日本で算出されたのは初めてだ。

算出した数値は「標準化病院死亡比(HSMR)」
と呼ばれる指標。

病名や年齢などから患者死亡率を予測し、
病院死亡率が平均の何倍かを割り出す。
結果は平均的な病院が100になるよう
調整して数値化する。

欧米では10年以上前から医療の質の
指標の一つとして使われ、質向上や
問題発見の契機になっている。


上原教授たちは、医療安全全国共同行動に
参加している大学病院や各地の基幹病院など
70施設から、07~08年の患者データを収集。

HSMRの計算法を開発した英国の
専門家に送り算出を依頼した。

多くの病院は100前後だったが、
120を超える病院が六つあり、最高は160。
低い方では、80未満の病院が11あり、
60程度が三つあった。

死亡率に最大で3倍近い格差がある可能性がある。
上原教授は「思ったより差があった」と話す。

結果は各病院に知らせ、医療を改善する
参考にしてもらった。
今は対象病院を180余りに増やし、
2回目の算出を進めている。

算出の目的は、各病院医療の改善ぶりを
数字で明らかにすることだ。


病院が安全対策の徹底に努めても
手応えは実感しにくい。
改善の成果がHSMRの変化として
数字に反映されれば、現場の励みになるし、
努力を社会に分かってもらえる」
と上原教授。

決して病院のランクづけが目的ではないという。
 
もちろん、これだけで病院の質が
決まるわけではない。

だが、HSMRが並外れて高ければ、
その病院医療のどこかに問題があることを
疑うきっかけになる。

データが増えれば、病院全体の死亡率だけでなく、
病気ごとの死亡率もチェックできるようになる。

しかも、今回の算出に使った患者データは
特別なものではない。

診療報酬を包括払い方式で請求する病院が毎月、
患者の診療内容を記載して厚生労働省に提出
している「DPC(包括払い)データ」だ。

提出している病院は約1400あり、
合計病床数は全国の約半数に達する。
主要な病院にとっては日常的なデータといえる。


欧米では、HSMRが130前後だった病院が、
努力して100未満に下げた事例が
複数報告されている。

一方、貴重なデータが生かされない日本。
格差は見え始めたばかりで、改善はこれからだ。


    ◇

病院選びに悩む患者・家族は多く、
出版物やインターネット上には
病院ランキング」があふれている。

だが、本来なら全国どこでも
最善の医療を受けられる状況が理想だ。

このため、今後のキーワードとして、
病院間の医療格差やばらつきを明らかにする
「見える化」や、格差をなくす
「均てん化」が注目されている。

患者にとってメリットの大きいこれらの
取り組みを進めるにはどうすればいいのか。
課題や解決策を探る。




明日へのカルテ:第2部・
医療格差をなくすには 
データ生かし死者減


医療の質のばらつきや格差を明らかにし、
是正していく取り組みは、欧米では既に一般的だ。

今回、国内で初めて算出された
「標準化病院死亡比(HSMR)」も利用が進んでおり、
実際に患者死亡率の低下につなげた病院がいくつもある。
日本でも同様の取り組みを広げていくには、
どうしたらいいのか。


 ◆診療の質、改善図る欧米

 ◇英の2病院、4年間で905人

HSMRが開発された英国では、公立病院などの
診療の質の管理に利用されている。

開発者の一人で、元英国医師会長の
ブライアン・ジャーマン英ロンドン大名誉教授
などによると、各病院のデータは毎月、
英インペリアル・カレッジに集められて分析され、
公開もされている。

数値が異常に高いとみられる病院には、
カレッジが警告を出す。
警告は同時に、法律に基づいて医療や福祉の質を
規制する独立組織「ケアの質委員会」に通知される。

 
効果は既に上がっている。
英中部のウォルソール病院は、
00年のHSMRが130だった。

死者数は年間1080人で、
平均的な病院より250人多いと推計された。

これを受け病院は、心臓病や呼吸器病、
がんなど7診療グループでそれぞれ改善を図った。
その結果、04年のHSMRは93に下がり、
死者を年295人減らせたと推定された。

また、01年のHSMRが95だった、
英中部の聖ルカ病院など2病院

さらに向上を目指し、院内に死亡率低減チームを設け、
院内感染予防や誤投薬防止などに努めた。
05年には78に低下し、02~05年の4年間で
死者を905人減らせたと推計されたという。

カナダでも、政府と地方自治体が共同で設立した
非営利の独立組織「カナダ保健医療情報研究機関」が、
90余りの病院について04年以降のHSMRを調査。

毎年の値を病院の実名とともに
インターネットで公開している。
この機関は、保健医療情報を収集・分析し、
公開するのが仕事だ。

HSMR導入後、07年までの3年間に、
カナダ全体のHSMRは約6ポイント下がったという。

機関は「HSMRは医療を改善する機会を与え、
変革を動機づけし、進歩の跡を示す」と指摘する。

日本では、今回の算出を継続的な取り組みに
つなげることができるのか。
今回はジャーマン名誉教授と研究班の協力で、
病院の負担はなかったが、本来は費用がかかる。

算出に携わった上原鳴夫・東北大医学部教授は
「改善の効果を『見える化』し、異常を早めに
察知し対処する仕組み作りのため、
日本でもHSMRが普及してほしい」と話し、
予算と態勢づくりに行政の支援を期待する。


 ◆分析ノウハウ探る日本

 ◇検査見直し黒字例も

日本では、HSMR算出に使われた
「DPC(包括払い)データ」を活用し、
医療の質や経営を改善する試みも始まっている。

DPCデータには、退院または病棟を移った
入院患者全員について、いつ、どんな治療を
実施したかなどの詳細情報が含まれる。

厚生労働省は全国の病院別データを公表しており、
これを分析することで他病院や全国平均と
診療プロセスを細かく比較することが可能だ。


「こんなに差があるのか……」。
昨年6月、愛知県の小牧市民病院で開かれた
「東海自治体病院DPC勉強会(ToCoM)」
の初会合で、参加者から驚きの声が上がった。

胆のう摘出手術後、感染症を防ぐため
注射する抗生剤について、1症例当たりの
平均使用額をDPCデータから比べたところ、
病院間で約300円から約1万1000円まで
大きな開きがあったためだ。

ToCoMには、愛知、岐阜、三重3県の
県立や市立の21病院が参加。
年2回程度、各病院の診療情報管理士らが集まり、
DPCデータを交換して
検査や投薬の状況を比較している。

初会合で高額な抗生剤使用が明らかになった病院は、
その後半年で使用額を半減させたという。

松阪市民病院(三重県)は08年度にDPCを導入し、
ToCoMで得た情報も参考にしながら
手術前検査などの効率化を徹底した結果、
09年度決算で平成に入って初の黒字を達成した。

ToCoMの代表世話人でもある同病院
世古口務・総合企画室副室長は
「各病院は最高の医療を提供している
と思い込みがちだが、実態は違うということを
DPCデータは客観的に示してくれる。
診療の効率化は在院日数が短縮するなど、
患者にとってもメリットが大きい。
DPCデータはまさに『宝の山』だ」
と話す。

 
ただ、こうした取り組みは一部にとどまっている。
国のDPCデータ調査研究班の代表者、
伏見清秀・東京医科歯科大教授は
「データの分析や活用のノウハウが、
まだ浸透していない」と指摘する。

厚労省は03年度にDPC制度を導入したが、
公表データの扱いは病院任せで、データを
管理・分析する統一的なシステムも構築していない。

診療情報を適切に管理・分析し、
臨床現場にフィードバックできる
人材の育成も大きな課題だ。

伏見教授は
「日本の病院は経営感覚にたけたスタッフが
欧米に比べ少ない。
臨床の担当者も医療の質の評価や効率化に
もっと目を向けるべきだ」
と訴える。


==============

 ◇病院が提出するDPCデータの主な情報

■診療録(カルテ)情報
 ▽患者の識別番号・性別・生年月日
 ▽治験の有無
 ▽入・退院日
 ▽入院経路
 ▽退院先
 ▽入院後24時間以内の死亡の有無
 ▽傷病名
 ▽手術の名称・実施日・回数
 ▽麻酔の種類
 ▽妊娠の有無
 ▽がんのステージ(病期)
 ▽化学療法の有無

■診療報酬明細書(レセプト)情報
 ▽診療行為の名称・実施日・回数
 ▽使用薬剤の種類・量・価格
 ▽医師識別番号、病棟識別番号
 ※患者名は匿名


『毎日新聞 1:2010/10/16』
『毎日新聞 2:2010/10/16』



こういうデーターが公表される事自体は、
非常に良い事だとは思います。

ただ、この数字だけを単純に比較する
という事は危険ですよ。

市販されている「病院ランキング」とか、
そういうのにも当てはまる事ですけどね。


何故かというと。
重症患者が多ければ、死亡率は上がる。
これ、当たり前の事ですよね。

言い方を変えれば、重症患者が多い病院は、
死亡率が高い
んですよ。

だから、
死亡率が高い病院」 = 「悪い病院
というのは、必ずしも当てはまらないんです。


例えば。

ある地域に病院病院がある、とします。

という病院は小さい病院で、
医療スタッフも足りないし、
医療器械も最新の物はそろっていません。

という病院は、地域の基幹病院で、
医療スタッフもたくさんいて、
最新の医療機器もそろっているし、
集中治療室などもある立派な病院です。

だから、病院はその地域のいろんな病院から、
重症の患者をたくさん紹介してもらっています。


とっても重症の患者さんが、
Aという病院に来た場合。

小さな病院が、うちの施設の医療では、
この患者は助からない。
この患者の命を助けるためには、
集中治療室もあって、医療スタッフも
器具も充実している大病院Bに送るしかない。


こういう場合、小さな病院
病院に送る事は、正しい事ですよね。

Bという大病院は、医療スタッフも優秀で、
医療器具もそろっていて、
素晴らしい治療が出来ますけど。

残念ながら、全ての患者さんを助ける、
という事はできません。


このまま病院にいたら助からなかった患者
助ける事が出来る場合も、もちろん多いけど。

病院で治療しても、病院で治療しても
助けられない、という命はもちろんあります。

だって、病院に来た瞬間、
人間が不死身になる訳じゃないですからね。


小さな病院は、重症患者病院に送る。
病院は、重症の患者さんばかり、
病院や他の病院から紹介されて治療している。

こういう場合、病院で亡くなる患者さんの数は、
かなり多くなりますよね、当然。

重症患者を診るのには、軽症患者を診るよりも
何倍も労力がかかります。

だから、軽症の患者さんは、なるべく中小病院で診て、
病院Bは軽症患者を減らして、重症患者の治療に
専念する
、という形を取ることになります。

こういうの「医療連携」、「地域連携」と言います。

その結果、病院には軽症患者は少なくて、
重症患者が多く集まります
から。
当然、死亡率は高くなります

こういう場合、病院死亡率が、
病院死亡率よりも低い、
という事があり得ます。


じゃあ、「病院BよりもA病院の方が
医療の質が良い」
、と言えますか?

そんな訳ないですよね。
元々診ている、患者の質、というか内容が
全然違う
んですから。
そもそも、比較になりません。


だから、この病院死亡率が高い
というだけで、医療の質が低い
という事にはならないし。
比較する事も、単純ではないんですよ。

だから、「死亡率が3倍」という言葉だけを聞いて、
この病院はけしからん。
なんて事を言ってはいけませんよ。


ただし、同じような病気、同じような重症度で、
死亡率に差があるか、ないか。

という事を比較して、差があった場合
やはり、医療の質自体に問題がある
と思った方が良いと思います。


死亡率が高い病院というのは、実際に存在します。
でも、客観的なデーターも見ないで、
「うちの病院は、重症患者が多いから」とか、
単なる「言い訳」をするだけでは、
良い医療が行われませんので。

客観的なデーターを比較して、
もし悪いのであれば、謙虚にそれを受け止める。
そして、何故悪いのかを、冷静に分析して、
悪いところを改善して、より良い医療を行う。

という事は、絶対に必要です。

そのためには、「客観的なデーターを集める
という事と「そのデーターを公表する
という事の両方が必要になります。


今まで、日本では欧米では当たり前だった、
そんな事が出来ていなかったので。
今回の件は、画期的な事だと思います。


実際、記事にも書いてあるように、
悪いところを分析して、死亡率が改善した。
という病院も、たくさんあります
から。

より良い医療を行うためにも、
どんどん広げていってもらいたいものですね。
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